tanakaの部屋

食べたもの、行った場所について

逃げ出すための旅

「私には自殺願望はない。でも、それがいまではなぜいけないんだろう、と思うことがある。(中略)そして、死はほとんどお菓子のような気軽さで、私を誘惑する。」著:江國香織 「ウエハースの椅子」より

 

この言葉、文章、そして込められた想いについて思考する。思考した後、「確かに」と納得する。

 

死にたいわけではない。
けれど、生きていたいわけでもない。

 

これが私の根幹にある思いであり、願いであり、本質である。

 

 

ここ二週間ほど、仕事を辛いと思う日々が続いている。
職場の同僚や先輩から嫌われているわけでも、疎まれているわけでもない。過重労働をさせられているわけでも、不当な扱いを受けているわけでもないのに、だ。
もともとやりたいことはなく、「なんとなく」で就いた職ではあった。「なんとなく」で始めたら「それなりに」続けることはできていた。
しかし、不意に訪れる、「ここではないどこかに行きたい」、「逃げ出してしまいたい」、「辞めたい」という気持ち。あるいは叶うことのない願望。


確か去年にも同じようなことがあり、嘔吐が続いた結果、ストレス性の胃炎だと診断された。
「ストレス」
私はその言葉が嫌いだった。それは免罪符のような顔をしていながら、その実、ただの逃げ道のような気がしてならなかったからだ。
そう思うのは、母がむかし、友人関係のストレスで生理不順を起こした私に対し「こどものくせに、何がストレスよ」と笑ったからだろう(生理不順は十年近くたったいまも続いている)。
母の言葉を契機に、「私はストレスを感じてはならない」=「ストレスという言葉を用いてはならない」という思考が私のなかで根付いた。きっとこれは今生で刈り取ることはできない種だろう。それほど根深く、私の薄い胸のなかにこびりついている。

 

ところがやはり「仕事を続ける」という、近年を生きる人間として当然の義務から解放されたいという安らかな甘えが、私に頭痛を起こし、吐き気を催させる。
そんな毎日から逃げ出したい一心で私は京都に行った。現実から離れられるならどこでもよかったが、京都は近場な逃避行場所として最適であった(京都を一日訪れただけで責務から逃げ出すことはできないのだけれど)。

 

その旅の始まりに、私は「逃現郷」という喫茶店を選んだ。
単純に店名に惹かれたからである。

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本当はオムライスかホットサンドが食べたかったのだけれど、それらは11時からの提供らしく、私が訪れた時にはいただけなかった。

ただし、カレーとトースト類、ハムエッグやサラダは朝からいただけるらしい。

少し悩んだ後、私はハニーバタートースト(350円)とブレンドコーヒー(400円)を注文した。

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ハニーバターが染み込んだトーストが6枚。

1枚、また1枚と食べ進めていくと、あっという間にお皿は空っぽ。ああ、なんて美味しかったんだろう…。

特別な「何か」がなくても、この朝食が幸福のひとつだということを知る。

 

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静かすぎず、うるさすぎないこの空間を私はすぐに愛してしまった。

次こそはオムライスとホットサンドにありつけますように。

再訪を、必ず。

 

珈琲 逃現郷

〒602-8441 京都府京都市上京区 大宮上ル観世町127-1